大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

松江家庭裁判所 昭和63年(家)960号 審判 1990年6月08日

主文

1  被相続人加藤明子の遺産を次のとおり分割する。

(1)  別紙遺産目録(編略)(一)の1記載の土地(借地権)及び2記載の建物並びに如藤明子名義の郵便貯金1066円(記号×××××・番号×××××××)はいずれも申立人の取得とする。

(2)  別紙遺産目録(一)の3ないし5記載の土地建物はいずれも相手方加藤和弥の取得とする。

2  相手方加藤和弥は、申立人に対し金1274万3357円を、相手方加藤義徳に対し金250万円を、相手方中村洋子、相手方秋山澄江、相手方寺沢典子に対し各金40万円を、いずれも本審判確定の日から3か月以内に支払え。

3  相手方加藤和弥は申立人に対し、前項の金1274万3357円の支払を担保するため、別紙遺産目録(一)の3ないし5記載の土地建物につき順位1番の抵当権を設定し、その旨の抵当権設定登記手続をせよ。

4  手続費用中、鑑定人○○○○に支給した鑑定費用金30万円は、申立人が金7万5000円、相手方加藤和弥が金22万5000円を負担することとし、その余の手続費用は各自の負担とする。

理由

本件記録に基づく当裁判所の事実認定及び法律判断は、以下のとおりである。

1  相続の開始、相続人及び法定相続分

被相続人加藤明子(以下、明子という。)は、昭和61年9月6日死亡し、相続が開始した。

その相続人は、明子の妹である申立人、明子の姉亡島田セツ子の子である相手方島田年次(以下、相手方島田といい、その余の相手方についても同様に姓のみで表示する。但し、相手方加藤和弥については相手方和弥と、相手方加藤義徳については相手方義徳という。)、明子の妹亡島田カナエの子である相手方藤井明子の兄亡加藤美弥の子である相手方和弥、相手方中村、相手方義徳、相手方秋山、相手方寺沢であり、各人の法定相続分は申立人、相手方島田、相手方藤井が各4分の1、その余の相手方が各20分の1である。

2  遺産の範囲及びその価額

明子の遺産は別紙遺産目録(一)記載の土地建物(1については借地権)、同遺産目録(二)記載の預金等及び明子名義の郵便貯金7万2066円(記号×××××番号×××××××)であり、不動産の価額は、別紙遺産目録(一)の1及び2記載の土地建物(1については借地権)が金196万3000円、同3ないし5記載の土地建物が金3273万1000円である。

なお、上記遺産目録(二)記載の預金等(利息を含め合計金2434万7628円)については、明子の死後、相手方和弥が株式会社○○銀行(旧商号・株式会社○○相互銀行)から払戻を受けたが、同相手方が右預金等を担保に昭和61年7月31日同銀行から借り入れた金550万円及びこれに対する利息金13万9677円が差し引かれたので、同相手方が同銀行から受領した金額は金1870万7951円である。また、上記郵便貯金については、申立人が昭和61年9月16日金7万1000円の払戻を受けたので、通帳上の残額は金1066円である。

以上によれば、明子の遺産の総額は金5911万3694円である。

3  遺産分割協議の成否等

相手方和弥は、明子の遺産については既に遺産分割の協議が成立していると主張するので、検討する。

(1)  本件記録によれば、次の事実が認められる。

<1>  明子の葬儀は相手方和弥がその準備等を行い、同相手方が喪主となって行われた。

<2>  昭和61年10月24日に明子の相続人全員が参加して明子の49日の法要が行われたが、その際、相手方和弥はその余の相手方及び申立人に対し、「相手方和弥が明子の不動産を取得し、同女の祭祀を司る。明子の預貯金が1900万円あり、これを他の相続人で分配する。」との遺産分割案を示したが、申立人は不動産も売却して相続人間で分配することを強く主張し、他にも異論のある相続人がいたため、当日はそれ以上話合いは進まなかった。

<3>  翌日も一部の相続人間で協議が行われ、相手方島田が、同相手方は金500万円、申立人は金900方円、相手方藤井は金300万円を取得するとの案を示し、相手方藤井はこの案に十分満足したわけではなかったが、遠隔地に居住しており、協議に再々出席することもできないことから、金300万円を取得することで承諾した。

<4>  相手方和弥はその後も、明子の遺産のうちの不動産は同相手方が取得することを前提に他の相続人と遺産分割について個別に交渉し、昭和62年1月から同年3月にかけて、相手方島田は明子の遺産から金550万円を取得することで、相手方義徳は同様に金500万円を取得することで、相手方中村、同秋山、同寺沢も同様に各金150万円を取得することで、それぞれ承諾した。

<5>  そして、相手方和弥は、「明子の死亡によって開始した相続における共同相続人である私共はその相続財産について後記のとおり遺産分割の協議をしたので、その証としてこの協議書を作成して各署名捺印し、各自1通を保有する。」との文言に続いて、「祖先の祭祀を司る者を相手方和弥とする。別紙遺産目録(一)の2ないし5記載の不動産は同相手方の所有とする。預金は次のとおり分かち各自取得する。」と記載された「遺産分割協議書」と題する書面を作成し、その余の相手方の署名押印を得、相手方和弥もこれに連署した。なお、相手方中村、同寺沢、同島田は同一の書面に署名しているが、相手方藤井、同義徳、同秋山はそれぞれ別個の書面に個別に署名しており、右各書面の「預金は次のとおり分かち各自取得する」との欄には各署名者の取得する金額が記載されているのみである。

そして、相手方和弥は、前記「遺産分割協議書」に記載された金員の趣旨で、現在までに相手方島田に金550万円、同藤井に金300万円、同義徳に金250万円、同中村、同秋山、同寺沢に各金110万円を交付しているが、右金員は、相手方和弥が払戻を受けた別紙遺産目録(二)の預金等から支払われたものと考えられる。

<6>  相手方和弥は申立人との間でも、他の相手方に対してと同様に明子の遺産分割についての交渉をし、「同相手方において明子の遺産である不動産全部を取得し、申立人は一切取得しない。同相手方はその見返りとして申立人に対し金900万円を支払う。」との要旨の公正証書を作成する準備までしていたが、申立人はこれを拒否して現在に至っている。

(2)  ところで、遺産分割協議は、共同相続人全員が当該遺産分割協議に合意して初めて有効に成立するものであるところ、前記事実によれば、相手方和弥はその余の相手方との間で明子の遺産について「遺産分割協議書」と題する書面を取り交わしているが、これは、相手方和弥がその余の相手方との間で個別に、明子の遺産についての自己及び当該相手方の取得分を合意したにすぎないものであり、しかも、相続人の一人である申立人との間では何らの合意も成立していないのであるから、遺産分割の協議が成立したといえないことは明らかである。

(3)  しかし、前記「遺産分割協議書」作成の経緯、その文言及び明子の遺産についての相手方らの法定相続分(相手方島田、同藤井は各金1477万8423円、その余の相手方は各金295万5684円、いずれも円位未満切捨)に照らすと、前記「遺産分割協議書」による合意の趣旨は、相手方島田、同藤井、同中村、同秋山、同寺沢はいずれも自己の相続分から前記「遺産分割協議書」で合意した金額を控除した残額相当分を相手方和弥に譲渡する旨の、相手方和弥は前記「遺産分割協議書」で相手方義徳が取得することに合意した金額のうち同相手方の相続分を超える額相当分について自己の相続分を相手方義徳に譲渡する旨の、各意思表示にほかならないものと認められる。

(4)  相手方島田、同藤井は、上記「遺産分割協議書」による合意は明子の預金額につき錯誤があり、要素の鈍誤により無効であると主張し、前記のとおり、明子の遺産のうち預金は額面で金2211万円強、利息を含むと金約2434万円であったのに、相手方和弥は他の相続人に対し明子の遺産のうち預金は1900万円であると説明しているのであり、また、他の相続人は相手方和弥のこの説明を信じていたことが認められる。

したがって、相手方島田、同藤井はこの点について錯誤があったことになるが、同相手方ら及び申立人の法定相続分は同割合であるのに、明子の預金の分割についての相手方島田の提案自体前記三者間でその金額を異にしていたし、前記提示額や相手方島田、同藤井が相手方和弥との間で合意した金額(相手方島田につき金550万円、相手方藤井につき金300万円)と相手方和弥から説明された金1900万円という数字との関連も明らかでない。また、相手方藤井自身、自己の取得額が相手方島田や申立人よりも少なくなることは了解していたのであり、同相手方らが上記金額で合意するに際し、格別他の相続人の取得額を確認することもなかった。確かに、相手方藤井の合意した額は、明子の預金を相手方和弥以外の相続人が分割するとの前提のもとでも、同相手方の法定相続分に比して少額であるが、同相手方は遠隔地に嫁いでおり、明子の祭祀の世話が十分できない立場にあり、同割合の法定相続分を有する申立人が相手方藤井の取得額の3倍の金額を取得することを容認していたことにも鑑みると、相手方藤井が前記金額で合意したことも不自然とまではいえない。

これらの点に照らすと、相手方島田、同藤井において前記錯誤がなかったならば、前記合意をしなかったであろうとまでは認められず、したがって、前記錯誤が要素の錯誤であるとはいえない。

よって、前記合意が錯誤により無効であるとの主張は採用できない。

なお、相手方島田、同藤井は、前記合意は他の相続人全員が遺産分割について合意することを条件とするものであったとも主張するが、右主張も認められない。

(5)  以上のとおり、相手方和弥とその余の相手方らとの間では前記「遺産分割協議書」により前記説示のとおりの相続分の譲渡があったものということができる。

4  具体的相続分

申立人を除く相続人間で前記のとおり相続分の譲渡がなされた後の各人の相続分は、申立人が金1477万8423円、相手方島田が金550万円、同藤井が金300万円、同義徳が金500万円、同中村、同秋山、同寺沢が各金150万円、相手方和弥が金2633万5271円となる。

5  遺産の分割方法

本件に顕れた一切の事情を考慮すると、次のとおり分割するのが相当である。

(1)  別紙遺産目録(一)の1記載の土地(借地権)及び2記載の建物並びに加藤明子名義の郵便貯金(記号×××××・番号×××××××。申立人において払戻を受けた金7万1000円を含む。)は申立人に取得させる。すると、申立人の取得額は金203万5066円となり、具体的相続分より金1274万3357円少額の取得となる。

(2)  別紙遺産目録(一)の3ないし5記載の土地建物は相手方和弥に取得させる。すると、同相手方の取得額は金3273万1000円となり、具体的相続分より金639方5729円多額の取得となる。また、同相手方は、別紙遺産目録(二)記載の預金等の払戻を受けた金2434万7628円のうちその余の相手方に交付したと評価できる金1430万円を控除した残額金1004万7628円について、これを償還しなければならない。

(3)  相手方義徳は自己の具体的相続分のうち未だ交付を受けていない金250万円の支払を受けることになり、相手方中村、同秋山、同寺沢もそれぞれ自己の具体的相続分のうち未だ交付を受けていない額(各金40万円)の支払を受けることになる。相手方島田、同藤井は前記のとおり既に具体的相続分に相当する金額の支払を受けており、本件遺産分割により新たに分割取得すべきものはない。

(4)  そこで、上記の調整等として、相手方和弥は、申立人に対し金1274万3357円を、相手方義徳に対し金250万円を、相手方中村、同秋山、同寺沢に対し各金40万円を支払うこととし、その支払時期は本審判確定の日から3か月以内とする。

なお、相手方和弥が申立人に支払うべき金額は高額であり、その支払確保の必要があるものと認められるから、右支払担保のため、同相手方の取得する別紙遺産目録(一)の3ないし5記載の土地建物のうえに申立人のために抵当権を設定させることとする。

6  手続費用

本件手続費用のうち鑑定人に支給した金30万円については遺産分割による受益の程度を考慮して主文第4項のとおり負担させ、その余については各自の負担とする。

7  よって、主文のとおり審判する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例